紳士的な狼の求愛
「恐れ入りますが、お断りします。男性のお取引先様と2人で食事はしないことにしておりますので」

有馬くんの目が丸くなった。

「まじ?」

「職業上、周りから誤解されるような行動は慎んでおります」

「……すげー。かたい……。じゃあ、駅までならいいでしょ? 偶然、って言い訳できるもんね」

仕事の時とは違う、フランクな口調と雰囲気だと、調子が狂う。

並んで地下鉄の駅に向かって歩く。

「プレゼン、部長が褒めてた」

「どーも」

「私もすごいと思った」

「やっぱりさ、せめて、コーヒーでも飲まない?」

つられてうっかりタメ口をきいてしまったけれど、一歩踏み込んできた彼に、慌てて敬語に戻し、距離をとる。

「飲みません」

「まじ? 固すぎだろ」

「どこで誰に見られているかわかりません。色恋がらみで仕事の融通きかせてると思われたくありませんから」

「そういう発言、俺、自惚れちゃうよ?」

「どこに自惚れる要素がありましたか」

「色恋の対象にしてくれるんだ?」

……かすかに動揺した私にたたみかけてくる有馬くん。

「コーヒーくらい、いいじゃん。次いつ会えるかわかんないし」

……そうだけど。

「俺、営業じゃないから、直接どうのこうのないし。久々に会った同級生とコーヒー。広い東京、誰も見てないよ」



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