紳士的な狼の求愛
彼は高校生の頃から、明るくて、かっこよくて、人目を引くタイプだった。
しかも、誰にでも心を開いて接することができて。
当然ながらモテるグループの男の子で、クラスの中心にいるような人だった。
私は端っこの方でひっそり生きてたタイプだから、話したことはほとんどない。
彼の明るい雰囲気は今も変わっていない。
コーヒーショップにて、仕事の話。お互いの業界の話。原田君の話。
今こうして話せていることに、自分の成長を感じて、少しだけほっとしていた。
「原田がさ、御社担当してからぐんと頼もしくなったって営業部の評判。バイヤーに鍛えられてるんだろうって」
大手だもの、取引金額に見合うだけの働きをしてほしいと思ってるだけ。
なんてことは、さすがに言えない。
「原田君は結構頑張ってくれて助かってる」
「ありがと。伝えとく?」
「調子に乗ると思うから、だめ」
有馬くんは否定せずに笑った。
私は、ぬるくなったコーヒーをちびりと飲む。
少しの沈黙の後、有馬くんが、静かに言った。
「俺さ、高校生の頃、青山さんってかっこいいなぁ、って思ってた。特にグループにも入らず、ひとりでいられて、かっこいいなぁ、って」
……この人は、良くも悪くも、素直すぎる。
「そんなかっこいいもんじゃなかったよ。ただ苦手だっただけ。生きにくかった。社会に出てからの方が、楽に生きられてる」
有馬くんは、はっとしたような顔をして、
「……ごめん」
と言った。
「別に気にしてない。……こっちこそ、有馬くんのこと、すぐに思い出せなくて、ごめん」
学生時代のことは思い出したくなくて、記憶の底にしまいこんでたから。