紳士的な狼の求愛
彼は不安そうに眉をひそめた。

「俺に再会したの、嫌だった……?」

「……ううん。別に……平気」

「俺はすごくうれしい」

今度は一転、笑顔になり、そんなことをさらっと言ってのける。

……素直すぎる。

私は、またもやってきたトクン、をぬるいコーヒーで流し込んだ。

「そろそろ帰らないと。仕事残ってるから」

立ち上がろうとすると、テーブルに置いた私の手を、有馬くんが上から包んできた。

咄嗟に手をひこうとするけど、強く握られて、動かせない。

大きくて、温かい、男性の手。

こうして男性に触れられるの、いつ以来だろう。
数年ぶりの男性の肌の感覚は、私の心臓をぎゅっと絞るのに充分だった。

……落ち着け、30歳。


「今、フリー?」


静かにそう言った彼の顔は、真剣で。
取引先のものではなく、
明らかに、男性としての顔だった。


いつもの私だったら、『お答えしたくありません』なんてバッサリいくはずなのに。

出てきた言葉は、

「……どうして?」

だった。




ーーー「また、会いたい」




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