どうしても言えない言葉
3 回想
あれは、高校に入学してから二ヶ月がたつ頃だった。
その日は朝は雨が降っていて、午後からは午前中の雨が嘘のように晴れたのだ。
だからそこすっかり忘れていた。
朝、傘を持ってきていたことに。
昇降口で友達の菊池夏子に言われて気がついた。
「真緒、あんた傘は?」
「え、あぁ!忘れてた!とってくるから待ってて!」
そう言って、夏子の返事も聞かずに今来た道を戻っていった。
真緒は自分の教室の前に立ち、ふと思った。
なんでドア閉まってるんだろう。
隣のクラスもその先も、みんなドアが開いているのに、私のクラス、二年五組はドアが閉まっている。
前も後ろもだ。
もしかして誰かいる?
もし仮にここで誰かが告白をしていたら……
私はなんとも空気の読めない女になってしまう。
そう思って後ろの窓から教室の中を覗いた。