どうしても言えない言葉
そこはなんてことない、いつもの教室だった。
人の気配もない。
漫画の読みすぎか、真緒はそう思って後ろのドアに手をかけた。
ガラガラ、ドアが音をたてながら開く。
すると今まで目に留まっていなかったものが見えた。
窓際の一番後ろの席に突っ伏しいる人がいる。
スラックスを穿いているところを見ると、男の子のようだ。
そういえば、あの席は大澤巧君の席だ。
ということは彼は大澤くんか。
巧は突っ伏したまま動かないので、真緒は寝ているんだと思い、傘を取ろうと教室に足を踏み入れた。
無事、傘を回収したあとに何となく黒板を見ると、黒板には『漢字テスト』の文字。
そうだ、明日は漢字テストだ。
真緒は、漢字のテキストを取りに教室の後ろにあるロッカーへと歩き出した。
ロッカーは出席番号順であり、か、という比較的早い首席番号の真緒は窓際にロッカーが近くなるのである。
要するに、眠っている大澤くんの近くに行くということである。
なるべく彼を起こさないように、静かに歩いていく。