どうしても言えない言葉

大澤くんの机の横を通りすぎようとしたとき、足が止まった。

大澤くんの突っ伏している腕のしたから何か白い布が見えている。

彼は机に白い布を敷いて、その上に突っ伏して寝ているのだ。

不思議に思った真緒は、じっと彼を見つめた。

これ、体操服じゃないか?

そもそも大澤くんはこんなに髪短かったっけ?

大澤くんは、どちらかというと線の細い美少年である。

さらさらの黒髪は、女の私からしても羨ましいかぎりだった。

しかし、今目の前で寝ている大澤くんは髪が少し短く、なんというかスポーツ少年に見える。

まさかこれ、大澤くんじゃないのか?

だとしたら、この大澤くんもどきは彼の席で何をしている?

嫌な汗が真緒の背中をつたった。

いやいや、そんなわけない。

これは大澤くんだ、それ以外あり得ない。

早くて漢字のテキストを取って帰ろう。

歩き出そうとした真緒の手を掴むものがあった。
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