僕が君の愛
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「なあ、明良。あの子だろう?」
カウンターに座る客が、手の中で氷を割っている明良に言葉を掛けた。先ほどまで、肇と言葉を交わしていたふたり組みの常連客である。肇と同年代であろう。明良にかける言葉も気さくなものである。
「そうですよ。男性を連れて来店されたことは今まで一度もなかったのですけども。オーナーが暴走するのではないかと僕は心配で仕方ないですね」
甲高くも小さな音を立て、明良の手の中からグラスへと氷が落とされる。注がれるのは気品高くも深みのある色。とくりとくり、とリズムを刻みながら。
「肇が溺れてるみたいだからねえ。相手の女の子も可愛そうに。あいつの場合、紳士ぶってるだけで、見かけも中身も獣だからなあ。それも、聞き分けのない」
「……女の子を口説くのはいいけれど。肇、例の指輪外してなかった。誰も気が付いていないのか?」
「あ……」
ひとりの常連客の言葉に、客も明良も言葉を失う。
職権を乱用し、店内の隅で加織をむざぼる肇には、3人の心配が届くことはない。