僕が君の愛

5・まるで子供のように

　肇との2度目の口付け。
　何故だろう。肇の舌は、唇は。どうしてこれほどまでに熱を帯びているのか。加織は疑問に思う。肇から与えられる熱で、加織の全ては火傷寸前だ。
　何度も角度を変え、加織をむさぼる肇。両方の掌で、頬を包み込まれてしまえば、加織が逃げるすべ等ない。意図的だろう。口付けの合間に流し込まれるのは、肇の唾液。
　加織は思う。もう、駄目だ。私は諦めるしかないのだと。心が、身体が。加織を作っている組織・細胞、その全てが。歓喜している。

　いつ、誰から聞いたのか。その記憶は、加織の中で定かではない。だが、その言葉だけは記憶している。
　――相性のいい異性は、匂いで分かるものだ――と。
　今ならば、その意味が加織にはよく分かる。肇の掌から、間近で揺れる睫や髪から。そして、肇から注がれる唾液から。全てから感じられる肇の香り。蕩けてしまうほどに、加織にとっては心地よく感じられるから。
　喉を鳴らし、肇から注がれた全てを飲み込む。加織の身体に沁み込んでゆくのは、肇が与える束縛と言う名の毒。あがなえる訳などなかったのだ、初めから。
　確かに。肇は、物語のロミオの様に愚かではなかった。だが、ひどく狡猾だ。加織を、肇の与える毒を飲む以外方法が無いほどまでに追い込み、毒を含ませ、自身だけのものにしようとしているのだから。
　加織の腕が、肇の背中にまわる。落ちてゆくのなら、肇も道連れに。そんな思いが、肇のシャツを掴む加織の掌に、力を加えさせる。離れることが出来ないほど、しっかりと。もう、あとはふたりで沈んで行くだけ……。

「加織……」

　肇の呼びかけに、加織は眸を開けた。絡み合うのは、熱を孕んだふたりの視線。乱れた加織の前髪を、肇は指の背で撫でる。瞼、鼻筋、唇。加織の形を確かめるように。最後は再び頬まで滑る、肇の左手。その左手にあるのは、小さくも存在感のある指輪。
　小さな光を帯びたそれが、店内の淡い照明を反射し、鋭く加織の眸に映った。その光が、加織を一瞬にして現実に引き戻す。身体の熱を共に奪って。