僕が君の愛
※※※※※※
オーナーである肇が不在となった、シガーバー。店の表には、既にクローズの札が下げられていた。もちろん、通常の閉店時刻にはまだ早い。オーナーである肇の、独断による閉店だった。
カウンター内にいるのは、明良の姿。そして、明良と向き合う形で、3人の客の姿があった。常連客と思しき人物ふたり組みと、犬養だ。半分ほどになった葉巻を吹かし、犬養が薄暗い天井に紫煙を吐き出す。
「最初から。私には難しいそうな……いや、付き合うことなど出来ない女性のような気はしていたんです。でも、どこか翳りのある眸が気になって」
「加織さん、多くの異性と付き合ってきたはずなのに、身持ちは固いですからね」
自身よりも加織をよく知っている風な明良の言葉に、犬養は苦笑を浮かべる。常連客のひとりが大げさに犬養の肩を叩いた。
「ここにある高い葉巻、数本持っていっていいです。どうせ、この店は肇の道楽で営業している様なものなんですから。赤字になろうと気にしないでしょう。それに、今回ふたりが上手くいったとしたら。それは犬養さんのお陰でもあるんだ。文句は言わせませんよ。俺が」
「そうそう」
常連客ふたりの言葉に、明良も同意の頷きを見せる。再び、苦笑を浮かべた犬養は、もう一度葉巻の紫煙を大きく吐き出した。