僕が君の愛
「随分と可愛らしい顔になったものだね、加織」
「……仕方がないです。私が必死で守ってきた鎧は、全部剥がれ落ちましたから」
「ああ。鎧か。確かにそうかもしれないね、面白い表現だ」
「肇さんのせいですからね」
頬に残る涙の跡を、肇は親指の腹で拭い取る。赤みを帯びた瞼には、キスをひとつ。
加織は言葉を続ける。
「もう、逃げません。覚悟が出来たと言えば嘘になります。でも……貴方が欲しいの、肇さん。たとえ、貴方が誰のものでも。同じことを繰り返すことになっても」
加織の掌が、肇の頬に触れる。親指で、肇の唇をなぞり……自身の唇を寄せた。啄ばむだけの優しいキス。今まで隠し、誤魔化してきた思いを乗せて。ふたりの唇が離れると、加織は再び肇の胸に頬を預ける。
「……私が、初めて付き合った人はね、肇さん。……既に結婚していたのよ」
くぐもった声で加織は語り始めた。紫煙を眺めれば、思い出してきた『彼』のことを。誰にも語ったことはない。綺麗な思い出ばかりで覆い隠し、知らぬふりを続けてきた、自身の胸に疼く古くも根深い棘のことを。