僕が君の愛
9・君に贈る
6月も末を迎え、2ヶ月前と比べれば随分と日が長くなっていた。景観を赤く染める日を背負いながら。寒さに追われたのとは違う理由で、加織の足の運びは速さを増す。
 カラスのプレートと、彩りのある小窓の付いたドアを開け、加織は店内に身体を滑り込ませる。カウンターに目を向ければ、客と言葉を交わす肇と視線が絡んだ。肇と加織、双方の眸が三日月に形を変える。肇と会話を楽しむ客の後ろを通り、加織は椅子に腰を下ろした。カウンターに頬杖を付き、肇に視線を向ける。

 加織が肇の気持ちを受け止め、互いの心を通わせたあの日から。既に2日が経過していた。
 2日前のあの夜。初めて肇の熱を加織自身の身体で感じたあの夜。肇の腕が加織の身体から離れることはなく。ようやく、肇が満足げに加織の瞼にキスをひとつ落としたのは。再び東から太陽が姿を現せた頃だったのだ。お陰様でとでも言うのだろうか。肇から解放された加織は、糸が切れた人形のようにベッドへ身体を沈めたまま。自分の意思で動くことがままならないほどの疲労感に教われる羽目になっていた。
 いい年を迎えた大人ふたりが、まるで高校生のような夜を過ごしたことに、正直恥ずかしさを感じなかったわけではない。だが、自身の気持ちを素直に吐き出し、受け止めてくれる相手がいる至福の時間に。誰に邪魔されることなく溺れていたいと感じているのも本心であった。
 ゆえに。社会人として気持ちが咎められる思いを隠しながらも。加織はその日の仕事を欠勤したのだ。オーナーとして勤務する肇の姿からは想像できない姿。戸惑いながらも、加織は嬉しく思っていた。カウンターを挟んでは決して見ることの出来なかった肇の姿。
 思い出しながら、加織は自身の頬が緩んでいることに気付かない。
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