僕が君の愛
「正体の分からない男の手など触る必要はない」
「肇。気持ちは分からないでもないけれど。友人を貶めるような発言は慎んだほうがいいと思うぞ」
苦笑を浮かべながら喜多が言葉を返す。大事なものを手にしているかのように、加織の手を離すことなく、肇も負けはしない。
「喜多が提案したクダラナイことで、私は加織に誤解されていたんだ。少しは反省してもらいたいね」
「でも、指輪のおかげで牽制できたことも多いだろうに。それに、お前の遠回りな行動が誤解を招いたことも多々あると思うけれどね」
不敵な顔を肇に向ける喜多の言葉に、加織は思い出す。今はない、肇の左手の薬指に鎮座していた指輪の存在を。
――見かねた友人が助言をしてきた。
恐らく、2日前に肇が言っていた友人と言うのは、喜多のことなのだろう。加織がひとり、ことの次第に納得しているとき。店内に戸が開閉された音が響く。その場にいた3人の視線が、自然と出入り口へと向けられる。視界に捕らえられたのは、加織の見覚えのある女性であった。加織の喉が大きく上下する。思い出される記憶。今までどうして忘れていたのだろうかと思えてしまうほどに鮮明に。
1ヶ月ほど前のあの日。肇がカウンター越しに指輪を渡していた女性。彼女がそこに立っていたのだ。