僕が君の愛
歳は加織と同年代か……、もしかするといくつか年下かもしれない。髪を束ね、トップでお団子にしている。店内の照明を反射し、淡い栗色の髪がキラキラと光っていた。細身のジーンズとチュニック。大きくはないものの、少しだけ目じりの上がった猫目の様なくっきりとした眸。無意識に凝視していた加織と、一瞬視線が絡んだ。
思わず。絡んだ視線を解き、カウンターの木目へと視線を落とす。だが、自身から視線を外してしまったことに気まずさと羞恥心を感じ、加織は自身の耳が熱くなるのを感じていた。
店内に、彼女の足音が響き、カウンターへ足を進めていることが分かる。加織の心拍数が僅かに上がる。相変わらず。肇に包み込まれたままの自身の手。それが小さく震えていた。
次の瞬間。静かな店内に、大きな音が響く。女性が両手をカウンターに着いた音だ。加織の身体が小さく跳ねる。
だが、聞こえてきた話は加織の予想外のものであった。
「喜多さん、やっと見つけた!もうお客様が見えてますよ!」
「猪俣さん。いやいや、俺は肇に家賃を渡しに来ただけで……」
喜多の言葉を遮るように、肇が会話に加わる。
「笑実さん、毎度のごとく喜多は家賃を踏み倒されているから。こいつの口の上手さに騙されないように。さっさと連れ帰ってくれて構わない」
「了解です!肇さん。さ、喜多さん、行きますよ」
このやり取りに慣れているのだろう。急き立てられるように、喜多は椅子から腰を上げ、女性に背中を押されながら店内の出入り口へと足を勧める。成り行きに乗り遅れた感のある加織は、口を挟むことも出来ず、ただただふたりの背中を眺める。
不意に、笑実《えみ》と呼ばれた女性が後ろを振り返った。