僕が君の愛
「そうだ、肇さん!先月お願いした指輪の件ですが。大変喜んで頂けました。協力していただいて、ありがとうございました」
「いやいや、私はただ橋渡しをしただけだ。力になれたのであれば幸いだ」
「お礼は後日改めて伺いますので!」
小さく頭を下げ、笑実は再び喜多の背中を押しながら、姿を消した。
事態を飲み込めない加織は、ただただ肇を見つめる。視線に気付いたのか、肇は苦笑を浮かべ口を開いた。
「彼女は喜多の事務所で助手のような仕事をしている女性でね。知人が大事にしている指輪を修理できないか悩んでいたんだ。だから、私が知り合いの宝石店を紹介した」
「……じゃあ、あの日は」
「明良から少しだけは聞いていたけれど。まさか、誤解されるとは思いもしなかったよ」
一方的に誤解していた加織を、咎めるような口調ではなく。懐かしい思い出を語るような肇の言葉に、加織も苦笑を浮かべる。ひとつひとつがふたりが築き上げた過程であり、記憶なのだ。
いつの間にか絡む加織と肇の指。加織の左手の薬指を、肇が優しく撫でる。
「腕のいい職人でね。今度一緒に行ってみないかい?」
「良いですね」
互いの視線を絡ませたまま、肇は唇を寄せる。加織の薬指に。
「この指にぴったりな指輪を、君に贈るよ」
――END――