僕が君の愛
ふたりを沈黙が包む。
ふと、思い出されるのは昼に見た加織の横顔。空へ上ってゆく紫煙を憂いのある眸で眺めていた加織。それには肇が関わっているのではないか。
眸を一度固く閉じ、瑤子は眸を開く。
「分かりました。何かあれば、私に必ず連絡をくれると約束していただけるのであれば、お教えします」
『……ご理解頂けて、ありがとうございます』
「ただし、江馬さんを泣かせた時の覚悟はしてくださいね」
『もちろんです』
※※※※※※
肇との通話を終え、瑤子は加織の携帯電話に連絡を入れた。必死で動揺を抑えていたのであろう。携帯電話を通し聞こえる加織の、震える声が痛々しかった。あとは、肇に委ねるしか方法はない。
ソファーに寄りかかり、天井を眺めていた瑤子の前に、同居人がマグカップを差し出す。甘い匂いのするオランジュショコラティだ。同居人はそのまま、瑤子の隣に腰を下ろし、自身の肩に瑤子の頭を預けさせる。逆らうことなく、瑤子もそれに従う。
「私のこのお節介はどうしようもないのね、きっと」
瑤子の自虐的な言葉に、同居人は柔らかい笑みを浮かべる。添えていた掌で、瑤子の髪を優しく撫でながら。
「瑤子さんのお節介がなければ、俺と瑤子さんは知り合っていなかったかも知れないんだよ。だから、俺にとってはありがたい」
同居人の言葉に、瑤子は小さく笑みをもらした。
瑤子が、加織から喜びの報告を聞くのは、翌々日のことだった。
おまけ・2016.5.6up