Tender Liar


「・・・はめてみ、それ」

「うん」


融に促され、私は今し方受け取った婚約指輪をはめてみる。

融はもちろん、誰かに指輪を貰うなんて、初めてだった。

にも拘らず、彼のくれたリングは、私の指にぴったりとはまった。

私は思わず、感嘆の声を上げる。


「すごい、ぴったりだ」

「そらそうやろ。毎日ユズのこと見てんねんから」

「でも、指のサイズなんて、普通は分かんないよ」

「俺には分かんねん。この細さやったらこのサイズかな、って感じで」

「えー?何、そのプレイボーイ的な発言は」

「俺だって、モテ期くらいあったわ。つーか、そんなん言うんやったら、リング没収やからな」


そう言いながら、融は微笑んだ。

リング没収なんて、そんなの冗談だって分かってるけど。


それにしても、融本人も言っていたように、彼は本当によくモテる。

そのことが逆に、私を不安にさせる。

もちろん、彼に信用がないというのではない。

むしろ私は、彼のことを全面的に信頼している。

けれどやっぱり心のどこかでは、彼を疑わしく思っている自分がいる。

でもそれがなぜなのか、その理由は明確だった。

それは――彼がまだ、十三年前の私に別れを告げた理由を、教えてくれていないから。

だから私は、彼をまだ完全には信じきれないのだ。
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