Tender Liar
そう叫んだのは、私じゃない。
私が彼の名を呼ぶよりも先に、その声が飛んできたのだ。
融、と叫んだその人の名前を、彼は微笑みながら口にした。
「彩、久しぶり。わざわざ来てもらって、悪いなあ」
「ううん、わたしは平気。それに柚紀にも、お迎え来てもらったんだし」
「まあ、せやけど。忙しなかったんか?」
「うん、別に。・・・久しぶりだね、柚紀も」
香月先輩は相変わらず愛嬌のある笑顔を私たちに向けた。
そんな彼女のことを、融は、どんな気持ちで見ているのだろう。
あくまでも、二人は元恋人同士にあった仲なのだ。
いくら別れたといっても、何がきっかけでまた好きになるかも分からない。
私がずっと漠然とした不安を抱いているのは、そのせいだった。
融は、香月先輩が好きだったのだろうか。
そんなことは、本人に聞いてみなければ分からない。
けれど、彼女を大切にしていたことは確かだと思う。
そうでなければ、きっと、こうして笑い合うことなんてできないだろうから。