ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
頭の中に浮かんだ抗議のどれもが、まるで彼に好意があるみたいな言葉でとても口にできなかった。
渋々卒業アルバムを開く。春海さんがじっと横から覗きこむ。
「……どれが私かわからないでしょ?」
「これ」
「……」
間髪入れずに春海さんが指差したのは、紛れもなく高校の頃の私だった。化粧っけもない。眉毛もちょっと太い。派手過ぎず地味すぎず、努めて平均的な女子高生でいようとした私の青春時代。
「ひなちゃん全然変わらないなー。写真までこんな気の強そうな顔して写っちゃって、かわいい」
「……その〝かわいい〟っていうの、口癖なんですか?」
若干非難めいた声のトーンで尋ねて、彼の顔を見る。
(……わ)
アルバムを覗きこんでいた春海さんの顔は、私が思っていたよりずっと近くにあった。鼻と鼻が触れ合うそうな距離。澄んだ瞳の中の自分と目が合う。
そっと頬に手を添えられて、一瞬だけ〝ちゅっ〟と唇が唇に触れてすぐ離れていった。
「……」
……え?
「このアルバムはラックに立てとけばいいの?」
春海さんはとてもナチュラルに私の手の中からアルバムを取って立ち上がり、ラックの方へと歩いていく。
……えぇ?
今のキスは何?
っていうか……。
「……春海さん」