ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
「なに?」
振り返った彼の顔は照れた様子もなく爽やかな笑顔。本当だったらこの読めなさに翻弄されてしまうところだ。
でも。
「……春海さんごめんなさい。私、その……彼氏がいるんです」
「え⁉︎」
さっきまで、自然なキスを決めて平然とした顔でいた春海さんの顔に驚きと戸惑い。
「あっ、えっ……そうなんだ 」
「はい。だから、こういうことはちょっと……」
やめていただけると、と言おうとすると慌ててこっちに戻ってきた春海さんが私の前に座る。
「うわぁ……ごめんね! それは嫌だったよね。申し訳ない……」
言いながら春海さんは、私の唇を親指でぐしぐしと拭った。自分からしたキスをなかったことにするかのように。
「……なんで急にキス?」
尋ねると春海さんは、困ったように笑う。
「一目惚れなんだ」
「困ります」
「だよね」
ごめんほんとに……と目の前で反省の色を見せる春海さんを見て、私は不覚にも〝かわいい人だなぁ……〟と思ってしまった。
かわいい人。
こんな人と恋愛するのも楽しかったかもしれないな、なんて思った。
ーーこれが罠とも知らないで。
後から考えれば、滑稽なことこの上ないなぁ〜と思うのですが。それはもう少し先のお話。