ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。



一人暮らしを始めてから2週間が経った、4月第4週目の水曜日。私はようやく一人の暮らしに慣れ始めていた。



入居の翌日に私の唇を奪って平謝りしていた春海さんが、あれからどうしているかと言うと。



例えば私が出勤しようとマンションを出るとき。



「おはよう、ひなちゃん。お弁当は持った? 今日はお昼間パラッと降るらしいから折り畳み傘あったほうがいいかもよ」



はいこれ、と薄ピンクの折り畳み傘を手渡される。管理人室のカウンター部分にあたる小窓越しに、ニコニコと。

なぜ女物を持っている……。

私はそれを丁重にグググッと押し戻す。



「おはようございます管理人さん。大丈夫ですお弁当持ってます。あなたは私のお母さんですか! お昼も外には出ませんし、傘も要りませんからお気遣いなく!」



私が早口でそうまくしたてると、春海さんは「そっか〜」と穏やかに笑う。
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