ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
きっちり拒めばちゃんと折れてくれる。……かと思えば違うのだ。
「まぁでも、持っといてよ」
「あっ!」
ぽいっ、と春海さんが放り投げた折り畳み傘がトスッと私の鞄の中に突き刺さる。
「もうっ……」
「時にひなちゃん、今日もいつもと同じくらいに帰ってくるの?」
完全に彼のペースだ。管理人室のカウンターから頬杖をついてにこにこと見つめてくる。
引っ越してきて2週間。春海さんはなにかと理由をつけて一緒に夕食を食べたがった。しかも、だいたいは彼が手料理を振るまってくれるという至れり尽くせり具合。
その手料理が予想以上に絶品だったので、私だってちゃんと料理してきたのに……!と若干ショックを受けつつ、その一品一品に舌鼓を打った。
だけど今日は。
「今日は遅くなります」
「そうなんだ?」