ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
珍しいね?と首を傾ぐ彼にそれ以上追及されないよう、「行ってきます」と言って出てしまおうとした。
だけど先手を打たれる。
「何か約束?」
「……今日はデートなんです」
「彼氏か! うーわ。訊かなきゃよかった」
なんなんですかそのリアクションは……。あからさまに面白くない顔をして、春海さんは目をそらす。
「デートか……食事だけ……とかじゃないよなぁぁぁ。ホテル行くのかな……」
「春海さん心の声がダダ漏れです。あととっても下世話です」
「ホテルじゃないか家か……」
「いい加減にしてください」
私に彼氏がいると知った春海さんはキスしたことを謝ってきた。だけど彼が私に向ける好意はまったく弱まらない。むしろ強く、悪化している気がする。
「今日はもう頑張れない……」と落ち込んで見せる春海さんを尻目に見ながら、私はマンションを出た。