ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
私が務めているのは、業界トップシェアの建材メーカーだ。主に住宅用建材を製造していて、床材や壁材・下地材をはじめとして内装や収納も手掛けている。
「おはようございます、鍋島(なべしま)さん」
「あぁ、おはよう瀬尾さん。今日はぎりぎりね?」
隣の席に座っている鍋島さんは、まだ始業時刻前にも関わらずデスクに書類を広げて仕事に取りかかっている。にこやかな笑顔で挨拶を返してくれた彼女は私より6つ上の先輩。朝、誰よりも早く出社していることに定評がある。
「今日はちょっと……厄介なのに捕まってしまいまして」
「あぁ、それって言ってた管理人さんのこと?」
「ですね」
私は頷きながら自分の席につく。パソコンを立ち上げて、筆記用具とハンカチと手帳を取り出し自分の左側に置く。その間にも鍋島さんは興味津々でこちらに身を乗り出していた。マツエクばっちりの大きな目が瞬く。