ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
それは困るので、私は渋々ノートパソコンの蓋を閉じて椅子から立ち上がった。



「すみません鍋島さん、少しだけ席はずします」

「はいはーい」



鍋島さんは何かを察して深くは追及してこない。

私が「5分で戻るので」と付け足すと、隣で待っている新田さんが「そんなに早くはないと思います」と口を挟んでくる。無視しきれずに「5分で終わらせるんです」と小声で訴えると、彼は肩を竦めて見せた。

総務人事部の部屋を離れ、新田さんと一定の距離を保ちつつ私はずんずんと廊下を突き進む。



「一体、どこまで行くんです」

「……」



私は押し黙って彼を振り返らず進み、普段社員がほとんど利用しない資料室までたどり着いた。彼が部屋に入ったのを確認して、開きっぱなしになっていたドアをしっかりと閉める。



「こんな人気のないところに連れ込まれたら、これからいけないことでもするみたいですね?」
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