ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
「親子喧嘩は正直家の中でおさめてほしいところです」
「喧嘩じゃありません……」
「日奈子さん、ずっと社長の電話無視しているんでしょう? まぁまぁ落ち込んでいらっしゃいますよ」
「……知りません」
「そういうところだけほんと子どもですよねぇ……」
「……」
子ども、という言葉にぴくっと反応する。それをも見抜いたように彼は笑う。
「あぁ、間違えました。〝そういうところだけ〟じゃありませんね。あっちも子どもでした」
「怒りますよ」
「怖い怖い。じゃあ、社長からの伝言は確かに伝えましたので」
「……新田さん」
資料室から出ていきかけた彼を呼び止めると、振り返る。〝まだ何かあるのか〟と面倒な気持ちを笑顔の下に隠した顔が見えた。
「なんですか?」
「今晩の約束、覚えてますか?」