ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
私が何も言わないからか、彼は切羽詰まった顔をぐっと近づけてくる。
「……平気か、って」
「あ、はい! 平気です!」
突き抜けた声が出た。本当に平気なのかは正直よく、わからなかった。体は痛いような気がする。彼が落ちてきたときに、胸をぶつけたような気もする。だけどわからない。魅入ってしまって。
「びっくりしたなもう……ごめん。手、見せて」
言われるがままに両方の手のひらを差し出す。とっさに彼のほうに向けて伸ばしたから、手のひらは傷ひとつない。彼は擦り傷がないことを確認すると関節を曲げさせて「痛くない?」と訊いてきた。私はこくこくと頷く。痛いかどうかなんてよくわからないそれよりも……顔が近い!
「普通さ……受け止めようとしないでしょ、自分より大きい相手を。逃げなきゃダメだよ、あぁいうときは」
「あの……大丈夫ですから、手」
離してくれないと、死んじゃいます。……とは言えないから、どう言えばいいのか困った。自分よりずっと大きな手が、少しずつ確かめるように手を握っていく。その間にもまじまじと見てしまう。顔の下。黒の七分丈のカットソー。なだらかな肩から続く鎖骨。
恥ずかしくなってぱっと目をそらした。