ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
「……恋愛ごっこ?」
震える手を自分の脚に押さえつけて聞き返しながら、私はまだ考えていた。――嫌だ。違う。そんなわけない。否定して否定して否定して。それでも拭いきれない最悪の可能性が頭から離れてくれない。
「新田はお前に手を出さなかっただろう」
黙って、と言おうとした口はヒュッと息を浅く吸っただけで言葉にならない音を吐いた。一度飲み込んで、低く声を出す。
「……どういうこと?」
「あれはお前には絶対に手を出せないよ。どう考えたって日奈子より私の傍にいる時間が長いだろう? その間にみっちりと、耳にタコができるほど、お前の処女には価値があることを伝えているからな。もちろん、婚約者のことも」
「……」
言葉が出てこない。処女はどうとかいう言葉が父親の口から出てきて不快極まりないのに、それでも私が今考えているのは別のこと。新田さんの話が聞きたい。
「まさか本当に新田がお前を好きになることもないだろうと思っていたが……万一好きになったとしても、あれは私の命令がある限りお前に手を出すことはできないんだよ。よくできた秘書だから」
「……お父さんが、言ったの? 新田さんに私と付き合うようにって」
「まさか。付き合えなんて言うはずがない」
「なんて言ったの」
「好きなようにさせておけ、と」
「……」
「そう言ったんだよ」