花京院家の愛玩人形

「そうですか。
でも、こっぱずかしいを通り越して虫唾が走るので、口には出さないでください」


「ハっハー!無理無理!
心の叫びは止められるもんじゃない!
Ti amo da morire!!!」


ぅわぁ…

なんて冷ややかな息子。
なのに、一向に折れる気配のない父親。

この温度差、一周回って笑えるわ。


「それはともかく。
フィレンツェは午前3時前くらいでしょうか?
お休みのところ、邪魔してスミマセン。
用件を済ませたらすぐに切りますから。
えぇ、すぐに、即座に、マッハで」


『死ぬほど愛してる』を『それはともかく』でサラリと流し、深くなりつつある眉間の皺を指で揉み解しながら要は言った。

でも、そんなの了承しそうなオヤジか?コレ。


「要くんが邪魔だなんて、とーんでもない!
ゆっくり語り合おうじゃないか!
二人でイタリアの朝焼けを見ようじゃないか!
『死せる生者の宝玉』を捜してくれ、なんて雲を掴むようなオーダーを貰って以来一度も連絡が取れないから、心配していたンだよ?」


ハハ、やっぱり。


「あぁ、そのオーダーはキャンセルで。
もう間に合ってます。
それに、二人で朝焼けを見たい人も、もう間に合ってますから」


「ん?
『死せる生者の宝玉』が間に合ってるって…
いやいや、それより。
二人で朝焼けを見たい人が、間に合ってる?」


「えぇ、彼女です」


振り返った要は、後ろに控えていた紫信の手を引いてカメラの前に導いた。

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