花京院家の愛玩人形
Ⅲ
階段を下り、隣を歩く紫信が既に知っている工房の前を通過して…
「僕の母は、僕が7才になる前に病気で亡くなっている。
だから代わりに紹介しよう」
廊下の突き当たりにあるドアを、要はゆっくりと開けた。
「そんなに幼い頃に、お亡くなりに…
…まぁ」
母親が故人であるという衝撃よりも、さらなる衝撃が目の前に。
扇を持つ舞姫。
白無垢姿の花嫁。
それから、羽衣を纏った天女…
二人を迎えた世にも美しい数々の日本人形に、紫信は言葉も忘れて立ち尽くした。
「ココにあるのは、僕の母、花京院 叶(カキョウイン カナエ)が作った人形たちだ」
居並ぶ日本人形によく似た切れ長の目を和ませ、満足そうに要は言う。
あ。
相当自慢なのね。
「人形作家として活動していた期間は短いンだケドね。
僕と同じ頃に才能を見出されて、父との結婚を機に18才で引退したそうだから」
居並ぶ日本人形によく似た形のいい眉を顰め、不満そうに要は言う。
あ。
ひょっとしてその辺りも、髭ダンディに対する反発の要因なのカナ?
「素晴らしいわ…」
紫信はフラフラと部屋に踏み入り、要の解説も耳に入っていない様子で小さく呟いた。