花京院家の愛玩人形

そしてガラスケースにそっと手を着き、溜め息混じりに訊ねる。


「お母様は…
どのような方でしたの…?」


「あのパリピと結婚したのが不思議なくらい、物静かで優しい人だった。
よく歌を歌ってくれたよ」


「マザーグース?」


「そう。
よくわかったね」


「…
ふふ、定番ですもの」


目を閉じた紫信は、深く息を吸い込んだ。

人形たちだけの世界の空気を味わうように。

ゆっくりと瞼を上げれば、視界の端にもう一つの扉。


「ねェ、要?
あの中にもお人形がいらっしゃるの?」


紫信は部屋の奥にあるその扉を細い指で差し、傍にやってきた要を見上げた。


「あー…
うん、そう」


おや。

またもや歯切れが悪い。


「引退してからも、母は人形を作り続けてた。
僕が今使っている工房は、元々は母のモノだったンだ。
あの中には、結婚して僕が生まれ、父の仕事の都合でイタリアに移住するまでの5年間に彼女が作った人形たちがいるよ。
興味があるなら、見ておいで」


苦虫を噛み潰したような表情で、ポリポリと頭を掻きながら要は答えた。

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