花京院家の愛玩人形
その、謎に包まれた部屋の隣。
尚且つ、工房の隣。
ソコは要のユートピア。
「やぁ、お待たせ。
やっと君たちに、僕の思い人、紫信を紹介できる日が来たよ」
意気揚々とドアを開けた要は、いつもよりも弾んだ口調で誇らしげに言った。
うん、『君たち』っていうかね。
人の気配はないンですケドね、言わずもがな。
生き物はいないンですケドね、言わずもがな。
そう。
人形、人形、人形人形人形…
壁一面をグルリと囲む特注のガラスケースに設えられたドールハウスの中で、ソファーやクッションに腰掛けた多くの人形たちが、気圧されて立ち竦む紫信を色とりどりの光る瞳で見つめていた。
様々なドレス。
様々な髪の色。
様々な表情。
だがどのドールも一様に息を飲むほど見目麗しく、圧倒的な存在感を放っている。
「わたくしは夢を見ているの…?
なんて…美しい…
なんて… なんて… まるで、生きて…」
「お褒めいただいた、と解釈してもいいのカナ?」
細かく震える呟きを耳にした要は、目尻を下げて紫信を見下ろした。
「美しい君にそんな風に言ってもらえて、僕の娘たちも光栄に思っているよ、きっと」
「いいえ、いいえ、わたくしなど…
あ…あの、要…
要は本当に」
不意に途切れた、小さな声。
不意に揺れた、栗色の髪。