花京院家の愛玩人形

急に、なんだろね?

不意に横を向いて黙りこんだ紫信の視線を追い、要もソチラを見た。

そこは、ドアをくぐってすぐの部屋の隅。
あるのは、何の変哲もない、木で出来た一脚の椅子と机。

そして、その机の上の、高さ30㎝ほどのドーム型のガラスケース…


「要…
彼は…どなたですの…?」


ドームケースを瞬きもせずに凝視した紫信が、うわごとのように囁く。

そうか、なるほど。

『彼』を、見ていたンだね。


「彼は、僕が5才の時に初めて作った、友人のピグマリオンさんだ」


要は身を強張らせる紫信の腰を抱き、テーブルの傍に導いた。


「ザックリ説明すると、型に流し込んだ粘土を乾燥させて成形し、それを釜で焼くのがビスクの制作工程なンだケド。
不思議なことに幼い僕は、ちょっとおかしな頭部の石膏型を作ってしまってねェ」


「おかしい、ですって?
とんでもありませんわ。
なんて凛々しい…」


「凛々しい、かい?
それは初めて聞く感想だ。
カワイイだとか、メルヘンだとかは、散々言われてきたケド」


カワイイ?
メルヘン?

確かにそうかも知れない。

だけど、伸ばされた要の手が愛しげに撫でるドームケースの中に立つ、レイピアを腰に帯びた白ウサギ頭の中世将校は、紫信の目にはゾクリとするほど精悍に映った。

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