花京院家の愛玩人形

「花京院を待ってンの?」


図書館の入り口近い窓際の席に座って単行本のページをめくる紫信に、コージは声をかけた。

質問の体を装った言葉だが、それは建前。

ここ最近、この時間にココで彼女が花京院 要を待っているコトも、その待ち人が今日は委員会で遅くなるコトも、知っているのだから。

ただの、お近づきになる切っ掛けとしての質問ってワケ。


「えぇ、そうですけれど…
あなた様は?」


ほーら、向こうから名前を聞いてきた。

『出逢い』は始まった。
二人が恋に落ちるまでの流れが始まった。


「俺はコージ。
花京院のクラスメートなンだ。
アイツ、今日は美化委員で遅くなるってよ」


多くの女のコを虜にしてきた爽やかな笑顔で、コージは紫信の顔を覗き込む。

だけど…


「そうですの。
ご親切に、ありがとうございました」


紫信は立ち上がって丁寧に一礼した後、すぐに座り直して単行本に視線を落としてしまった。

あれ?

流れ、ブった切ったカンジ?
むしろナニも始まってないカンジ?

『あなた様は?』ってのは、単なる身元確認的なアレだったってカンジなの?

てか、キラキラ男子の至近距離爽やかスマイルで、頬を染めないどころか眉一筋動かさないとは…

彼女、やりおる。

さすがは白蝶貝の薔薇。
一筋縄ではいかないか。

< 123 / 210 >

この作品をシェア

pagetop