花京院家の愛玩人形
「花京院を待ってンの?」
図書館の入り口近い窓際の席に座って単行本のページをめくる紫信に、コージは声をかけた。
質問の体を装った言葉だが、それは建前。
ここ最近、この時間にココで彼女が花京院 要を待っているコトも、その待ち人が今日は委員会で遅くなるコトも、知っているのだから。
ただの、お近づきになる切っ掛けとしての質問ってワケ。
「えぇ、そうですけれど…
あなた様は?」
ほーら、向こうから名前を聞いてきた。
『出逢い』は始まった。
二人が恋に落ちるまでの流れが始まった。
「俺はコージ。
花京院のクラスメートなンだ。
アイツ、今日は美化委員で遅くなるってよ」
多くの女のコを虜にしてきた爽やかな笑顔で、コージは紫信の顔を覗き込む。
だけど…
「そうですの。
ご親切に、ありがとうございました」
紫信は立ち上がって丁寧に一礼した後、すぐに座り直して単行本に視線を落としてしまった。
あれ?
流れ、ブった切ったカンジ?
むしろナニも始まってないカンジ?
『あなた様は?』ってのは、単なる身元確認的なアレだったってカンジなの?
てか、キラキラ男子の至近距離爽やかスマイルで、頬を染めないどころか眉一筋動かさないとは…
彼女、やりおる。
さすがは白蝶貝の薔薇。
一筋縄ではいかないか。