花京院家の愛玩人形

空を覆う鉛色の雲が、抱えきれなくなった雨粒を再び地上に降らせ始める。


「恋人だとか、夫婦だとか。
そんな、人間が勝手に決めた概念なんかじゃ彼女は縛れない。
君が言う人間ならあって当然の欲や打算を、そもそも彼女は持ち合わせていない」


落ちてきた雫が、水溜りに一つ二つと小さな波紋を作る。


「愛だけをひたむきに待ち、愛だけにひたむきに応える、人間とは似て非なる神秘の存在。
それが彼女だ。
僕が愛でずにはいられない紫信だ」


落ちてきた雫が、重く長い前髪を一つ二つと滑り…


「打算を先読みして欲を満たしてやりさえすれば満足する扱いやすい君と、紫信は同じなんかじゃないから。
一緒にしないで」


髪を掻き上げて雨粒を払いながら辛辣に言い放った要は、絶句するユイの前から今度こそ立ち去った。

辛辣っつーか…

ただの事実なンだケドね。
人間と人形じゃ、違って当たり前だからね。

だがユイは、蔑まれたと思った。

ただフラれただけではなく、自らの全てを否定され、蔑まれたと思った。

チョロいはずの男の中でもさらにチョロいはずの非リアに、『扱いやすい』なんて言われた。

つまりチョロいと言われた。

私って、そうなの?

求められて。
チヤホヤされて。

多くの男を踏み台に君臨してきた、この私が?

花京院 要の目には、差し出されたステータスという名の餌に、簡単に尻尾を振って飛びつくチョロい女に映ったっていうの…?

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