花京院家の愛玩人形
「えぇ、もちろん。
毎晩手を繋いで、同じベッドで眠りますわ。
わたくしたち、愛し合っておりますもの」
その、質問の意図とはズレた紫乃の答えを聞いて。
気恥ずかしさなど微塵も感じていない紫乃の様子を指の隙間からチラリと確認して。
要は深い安堵の溜め息を吐いた。
「まだ純粋培養中か…
良かった…
ナタナエルみたいに発狂するかと思った…」
「良かった…のでしょうか?
花京院様にとって?」
再びコトンと首を傾げる、その無垢な仕草。
何一つ現実を知りはしない、その無垢な表情。
生まれたての赤ん坊のように無垢な彼女。
事実彼女は生まれたばかりなのだと、要は思っている。
「やっぱり、よくわかりませんケドも…
ナタナエル、というのは、さっき仰った恐ろしい短編小説の主人公ですの?」
瞳を輝かせ、テーブルに身を乗り出して訊ねる紫乃。
ほら、ね?
コドモは好奇心の塊だ。
「そう、『砂男』の主人公ですよ?
興味ある?
君は…」
部屋に入った時から、気づいていた。
テーブルの上の。
そして、壁一面の棚にギッシリ詰まった…
「本が好きなンだね」
頬杖をついて紫乃との距離を少し縮めた要は、薄く微笑みながら言った。