花京院家の愛玩人形
軽いな、この偽イタリア男。
頭スッカラカンなのかな。
とか思っちゃった?
それが、そーでもなかったの。
優斗は言った。
「ねェ、紫信さん。
来ないかも知れない明日のために今日を我慢するなんて、馬鹿ばかしいと思わない?」
と。
「人生ってのはね、実に呆気なく終わるンだ。
だからその瞬間を迎えた時に後悔しないよう、好きなコトをして、好きな人と愛を謳歌して、心のまま今を生きるべきだと私は思ってる。
もちろん他所様に迷惑をかけるのは論外だケドね」
とも。
その刹那的とも言える、だがしかし真理であるとも言える彼の考え方は、要の母、そして彼の妻である叶が早世してしまったことに由来しているのかも知れない。
「人形だろーが美○明宏だろーが、愛があればイイじゃない。
勢い余って失敗してもイイじゃない。
生きてさえいれば何度だってやりなおせるし、私だって生きてさえいれば何だって助けてやれるンだから、いつでも頼ってくれればいい。
ところで、『紫信ちゃん』って呼んでも構わないカナ?」
などと茶目っ気たっぷりに片目を閉じた優斗に、紫信は満面の笑みで頷いた。
妖怪まで許容範囲内とは、恐れ入りマシタ。
それからだ。
愛する息子が少しも連絡をくれなくて寂しいと嘆く父親の頼みを聞き入れ、紫信が要の日常生活をこっそりリークすべく優斗とランチを共にするようになったのは。
だからこれは、秘密の逢瀬。
話すのはお互い要のコトばかりなのに、要本人には秘密の逢瀬。