花京院家の愛玩人形

だが…


「…
好き…は、好きなのですけれど…」


瞳の輝きが翳る。
長い睫毛が下を向く。


「わたくし、他にするコトがないのですわ。
外出を…
いいえ、庭に出ることすら、信太郎さん…婚約者の彼に、禁じられておりますの」


そう呟いて、紫乃は寂しそうに肩を落とした。

俯いてしまった彼女の髪に、大きな手が躊躇いがちに伸びる。


「いつから?」


「いつから…でしたかしら?
そう、右目にケガをしてしまってから…」


「どうしてケガを?」


「どうして…でしたかしら?
あら… わたくし…
どうして忘れているのかしら?」


「ココから出たい?」


「えぇ…
信太郎さんの心配はわかるのですけれど…
お人形のようにずっと家に閉じこもっているだけなんて、わたくしは…
わたくしは…

まぁ、わたくしったら」


夢から覚めたように、紫乃が視線を上げる。

彼女の髪に触れられなかった手は、テーブルに落ちる。


「初対面の方に愚痴をお聞かせしてしまうなんて、はしたない真似を。
申し訳ありません、花京院様。
どうぞお忘れくださいましね」

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