花京院家の愛玩人形

「ま…まぁ‥‥‥クっ
いえ、あの‥‥‥‥‥ふ…」


震えだしそうな肩に力を込める。
緩みそうな頬を白い両手で隠す。

要から事件の記憶が抜け落ちているワケを聞いてこぼれそうになる笑みを、紫信は必死で堪える。

だって…

ショックで呆けて、ドコへ行こうがナニがあろうがウサギの人形を抱いたままただユラユラ揺れている、まだ頬がふっくらしていたであろう小さな要とか…


「ふふっ
申し訳ありません、優斗様。
不謹慎だとはわかっているのですが、そんな要を想像すると、お可愛らしくて愛おしくて…」


「ハっハー!謝ることはないさ!
むしろ盛大に笑ってやってくれ!
叶を失くして失意のドン底にいた私に笑顔を戻してくれたのも、揺れる要くんの超絶可愛い姿だったからね!」


ハイ。

堪えきれずに吹き出してしまった紫信の前に、超絶親バカ降臨。


「本当に可愛いだろう?ウチの要くんは!
彼は、空に還った女神が私に遺してくれた天使に違いないよ!
そして私は、天使を護る聖騎士なンだ!
だから、人形作家・花京院 要は未開の地を転々と旅していると、世間には吹聴しているよ!
天使の目を狙う悪魔が現れて、居場所を探られたりしないようにね!!」


ハイ、ハイ。

叶サンは女神で、アンタは聖騎士ね。

でもって要は、流浪の天使ね。

なんつーファンタジー設定ブっ込んできやがンだ、この中二ダンディが。

だが、そこには愛がある。

家族のあたたかな愛で溢れている。

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