花京院家の愛玩人形
「…よくわかりましたわ。
優斗様の天使が傷つくことのないよう、わたくしも細心の注意を払うようにいたしますわね」
長い睫毛を伏せ、一言一言噛みしめるように紫信は言った。
一息ついてコーヒーカップに伸びようとしていた優斗の手が、ピタリと止まる。
「なんの話カナ?」
「要でさえ憶えていらっしゃらない話をわたくしに教えてくださったのは、警告の意味合いがあってのことなのではありませんこと?
『そうなるかも知れない』要とは違って、わたくしの目は確実に『死せる生者の宝玉』ですもの」
「…
紫信ちゃんは本当に鋭いねェ…
怖がらせる気はなかったンだよ?
ただ、私としては…」
「えぇ。
それはもちろん、わかっておりますわ。
要を悲しませたり、危険な目に遭わせるのは、わたくしにとっても本意ではありませんもの」
口元を片手で隠してしとやかに笑い、紫信は言う。
それから時計を見て、優斗に暇を告げる。
また明日、と約束を交わして通話を切り、立ち上がった紫信の胸に去来するのは、炎に包まれるかつて愛した男の姿。
わかっている。
もう、何も知らずに守られていればいい人形ではいられない。
強くならなければ。
だがその固い決意は、たおやかな微笑みの裏にそっと隠して…
部屋を出た紫信は軽やかな足取りで階段を下り、要の娘たちが並ぶ地下室のドアを開けて明るく声をかけた。
「皆様、要を迎えにいって参りますわね」