花京院家の愛玩人形

 
いつもの図書館。

既に定位置となった窓際の席で。

開いた本の文字を追うことに全く集中できず、紫信は微かに苦笑した。

気づいてンスよ。

熱い視線に気づいてンスよ。

だって、あからさまなンだもん。


「わたくしに何かご用でしょうか?」


顔を上げて振り返った紫信は、本棚に隠れているつもりの人影に声をかけた。

『つもり』っていうのはね。
顔も身体も半分以上ハミ出てるから。

これっぽちも隠れられてないから。

確か昨日は、読む気もない本を机に立てて、目から上だけを出してガン見してたよね。

『読む気もない』っていうのはね。
立てた本が逆さまだったから。

ソレに気づいた貸出カウンターのオネーサンも、顔を真っ赤にして笑いを噛み殺してたから。

あからさますぎて、なんつーかもはや可愛いな。

突然声をかけられてビクリと身体を揺らした人影が、気まずそうに姿を現す。

うん、やっぱ可愛いな。

ランドセルを背負った、小さなストーカーくん。


「どうぞ、おいでになって?」


「…


行ってやってもいいケドー…」


生意気そのもののセリフとは裏腹にまるい頬をバラ色に染めた少年は、差し伸べられた白い手に導かれ、トコトコと紫信の傍に歩み寄った。

まじで可愛いな、おい。

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