花京院家の愛玩人形
赤くなった頬を恥ずかしそうに両手で覆い、紫乃は言った。
そしてすぐにまた、唇に美しい笑みを浮かべる。
「それに、後少しの辛抱ですのよ。
わたくしたち、もうすぐこの家を出ますの。
キャンピングカーに乗って、旅をしながら暮らすンですのよ。
そうすればまた以前のように、自由に好きなトコロへ行けるようになりますわ」
彼女の表情は、心の内を全て吐露するかのようにクルクルとよく変わる。
だからこそ、その無垢な笑顔に要の胸は痛んだ。
彼女が語る夢物語に、泣きたくなるほど胸が痛んだ。
「…
いつ、旅に出るの?」
「さぁ?
でも、今すぐ、というわけではありませんわ。
まだなんの準備もしておりませんもの」
「じゃあ僕、それまで毎日会いに来るから」
「え… え?」
ボソボソながらも若干強い調子になった要の声に、紫乃は目を見開いた。
いや、声にも驚いたケド。
その内容もかなりの驚き。
「あの…花京院様?
わたくしは…その…お気持ちに応えることはできません、と…」
「聞いたケド。
ソレがナニ?
僕は、ココにはない本を君に貸そうと思ってるだけだから」
「まぁ…
それは…」