花京院家の愛玩人形
Ⅳ
紫信はシッカリしてるンです。
ド天然で浮世離れしているのは事実ですが。
それでも、それなりにシッカリしてるンです。
だから、買い物は断念しようと決めたンです。
冷蔵庫の中にある食材で、献立を考え直したンです。
テレビの天気予報でも、後少しでこの辺りが暴風圏内に入るって言ってましたしね。
だけど…
図書館の待ち合わせはどうしよう?
要は、真っ直ぐ家に帰ってくる?
それなら大人しく待っていなくちゃ。
それとも要は、図書館に寄る?
それなら行かなきゃ申し訳ない。
しかも要は、来るか来ないかわからない自分を図書館で待つ羽目になったり…
(そんなの、申し訳なさすぎて合わせる顔がないわ)
花京院家のリビングで。
キリリとした表情でコクンと頷いた紫信は、抱いていたクッションをソファーに置いて決然と立ち上がった。
強風で折れる可能性のある傘は避け、梅雨の時期に要が買ってくれた、紫陽花色のフード付きレインコートを身に纏って。
要用の黒いレインコートとタオルを、濡らさないようビニール製の袋に入れて。
さらにソレを両手が自由になるナップザックに入れ、背負って。
万が一要と入れ違いになってしまった時のために、すぐに戻るから捜さないよう、という内容の丁寧な書き置きをテーブルに残して。
地下に下りて気合の入った『いってきます』を言い、玄関でレインコートと同色のレインブーツを履けば…
出撃準備完了。
ほら、シッカリしてるでショ?
学校の災害対策事情と、電話という文明の利器を、すっかり失念しているコトを除けば。