花京院家の愛玩人形
「あの…
どこか具合がお悪いのではありませんこと?」
コトンと小首を傾げた紫信は、自らに凶器を翳す男に向かって心配そうに訊ねた。
お───い!?
明らかに襲われる側のクセに、ソレ、ナニゴト─────!?
その声を聞いてビクリと身体を揺らした男が、スローな動作を止める。
そして…
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ…」
マスクの中で、なにやらモゴモゴと呟いた。
なるほど、わからん。
てか聞こえん。
「なんですって?」
「ゴメンナサイゴメンナサイ…
オレハマチガッテルンデスマチガッテルノハワカッテルンデスマチガッテルンデスデモデモデモデモデモ…」
「落ち着いてくださいまし。
何かわたくしにできることがあれば」
「ヤラナキャヤラレルヤラナキャヤラレルヤラナキャヤラレルヤラナキャヤラレルヤラナキャヤラレル─────!!!」
やっと聞き取れた男の声は、その直後、ゴウゴウと鳴る風の音にも負けないほどの絶叫に変化を遂げた。
それと同時に停止していた包丁も動き出す。
またもや絶体絶命。
しかし、さらにその直後、バァーン!とナニカを叩きつける大きな音と共に…
「ちょっとアンタァァァァァ!!??
ウチのコにナニしてンのォォォォォ!!??」
ゴウゴウと鳴る風の音を切り裂くような怒声が、辺りに響き渡った。