花京院家の愛玩人形
オカンだ。
いや…
「ユイ様!?」
図書館の外壁を振り返り、紫信は目を瞬かせた。
ソコにいたのは、ユイだった。
全開にした細い外開き窓から身を乗り出し、吹き込む強風に髪を乱し、鬼の形相をしたユイだった。
って、コワい。
しかもその手には、金棒…ではなく、施設の備品と思われるトイレットペーパーのロールが握られている。
って、ちょっとカワイイな。
トイレで丹念にマスカラを塗っていた彼女には、聞こえたのだ。
狂ったような男の絶叫が、聞こえたのだ。
不審に思い。
窓から外の様子を窺い。
紫信を見つけ。
そして、紫信に包丁を向ける男を見つけ…
ハイ、オカン降臨。
「離れなさいよっ!!
そのコになんかしたら許さないンだからっ!!
このっ!!このっっ!!!」
なんとも勇ましい宣言と共に、大量のトイレットペーパーが宙を舞う。
濡れてしまった薄い紙がどんな状態になるのかは、もうお察し。
いくつかの直撃を食らった白いレインコートの男は、頭や身体にベッタリと張りつくペーパーを払うのに、躍起になりはじめた。
致命傷にはなり得ないが、確実に相手の焦りを誘い、攻撃の手を止めさせる頭脳プレー。
ユイさん、アンタ凄ェよ。
だが、その猛攻も長くは続かない。