花京院家の愛玩人形

「チっ 弾切れか」


ユイは忌々しげに舌打ちした。

だよね?
こんだけ投げたら、そりゃ予備のトイレットペーパーもなくなるわ。

これ以上、男の凶行を止めるすべはない…

と、思われたが!

最後に一つ、トイレットペーパーではないナニカが、一直線に飛来した。

見事男の横っ面にヒットしたソレは、トロリとした液体を吐き出しながら道路に落ちる。



ハンドソープのボトルじゃん。

え?フェイント?

『弾切れ』なんて言って油断させてかーらーのー、フェイント攻撃?

ユイさん、アンタまじ凄ェよ。

男が洗剤でベタベタになったマスクを顔から剝ぎ取った時にはもう、ユイの姿は窓の傍から消えていた。

考えられる、彼女のこの先の行動は。

警備員などを伴っての、この場への急行…

男はパニックに陥った。

そもそも始めから、まともな精神状態ではなかったのだ。

その上、思いもよらなかったトコロから、ベタベタ&ベッタリな返り討ちを食らって。

取り押さえられる可能性が高くなった、この状況に直面して。

男は世界の終末がやってきたと錯覚するほどのパニックに陥った。

逃げなければ。

ドコに?

ココではないドコかなら、もうドコだって。

当初の目的などキレイサッパリ忘れ、男は闇雲に駆け出した。

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