花京院家の愛玩人形
「紫信っ!」
最初に角を曲がってやってきたのは、要だった。
傘も差さずに駆け寄って。
制服が濡れるのも気にせず、片膝を地に着き。
「無事!?」
まだ倒れたまま上半身だけを起こす紫信の小さな顔を両手で挟み、色違いの二つの瞳を覗き込む。
なんて冷たい手。
ずっと雨に打たれていた、自分の頬よりも。
心配をかけてしまった…
「大丈夫ですわ。
ごめんなさい、要…」
紫信は頬を包む要の手の上に自らの手を重ね、長い睫毛をそっと伏せた。
そんな二人の隣を、暴走列車が通過する。
これまた、傘も差さないで。
「アイツ、ドコ行ったのっ!?
逃げたのっ!?」
その後を、普通列車が追いかける。
二人の隣で停車して、要に傘を手渡して。
「えー?逃げたのー?
俺も河童、見たかったー。
ハイ、ユイも傘」
「あ、どーも…
って、河童じゃないわよ!
百均で売ってるようなペラっペラの白いカッパ着て、メガネとマスクで顔を隠した男よっ!」
「え…それじゃガチの事件じゃん。
犯人のその恰好…
まさか凶器は丸太…」
「違ーう!包丁持ってた!
丸メガネの兄貴でもないわよっ!」