花京院家の愛玩人形

「紫信。
相手の顔、見た?」


硬い声で要は訊ねた。

すべきコトとは、もちろん通報。

凶器を持った男に襲われたのだ。
最悪、刺されて死亡エンドだったのだ。

お巡りさんに助けを求めて当然だろう。

なのに…


「それは…
お待ちくださいませ」


その意図を察した紫信は、スマホを握る要の手にそっと触れて待ったをかける。


「どうして?
顔、見なかったの?」


「いいえ、見ましたわ。
次にどこかでお見掛けしても、判別できるくらいにハッキリと」


「なら、どうして?」


「あの方には、わたくしを傷つけるおつもりはないご様子でしたので」


「はぁぁ!? アンタ、バカじゃない!?
世間知らずだから☆って笑ってらンない、本物のバカじゃない!?」


最後に、呆れと怒りを滲ませた大声を張り上げたのは、またも降臨したユイお母様だ。

要を押し退け、紫信の前に立ち。
細い肩を強く掴んで揺さぶって。


「こーゆーのはネ!?
『今回はケガもなかったし、まぁいっか』で済ませちゃいけないの!
そうやって放置するコトが、大きな事件に繋がるの!!」


ご尤もデス、お母様。

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