花京院家の愛玩人形
「あ… ハイ…
あの… 申し訳…」
「大体ね!?
『傷つけるおつもりはない』なんて、どの口が言うか!?
思いっきり包丁突きつけられてたじゃん!?
どー見てもあのカッパ、アンタを傷つけるおつもり満々だったじゃん!?」
「ハイ… あの… ハイ…
仰る通りですわ…
その… ですから…」
オカンの剣幕に、紫信はもうシドロモドロ。
でもね?
世間知らずのバカだからじゃないの。
なんの理由もなく、通報を拒否してンじゃないの。
紫信はシッカリしてるンです。
「ですから…
あの方は、誰かに強要されていたのではないでしょうか?
わたくしを襲え、と」
目の前のユイにガクガク揺すられながら、その後ろに立つ要を色違いの二つの瞳で真っ直ぐに見つめ、紫信は言った。
想像もしなかった見解に、コージとユイはポカンと口を開けたが…
逆に要は、薄い唇をギュっと引き結んだ。
あるよ。
そんなおつもりもないヤツに、そんなおつもりもないコトを強要できそうな『誰か』に、心当たりが。
荒れ狂う空を仰いで。
溜め息を一つ吐き出して。
再び手元に視線を戻し、スマホに指を滑らせ始めた要だが。
もうお巡りさん呼ぶ気はないからね。
「あー… スンマセン。
タクシー一台、お願いシマス」