花京院家の愛玩人形
なんでココにいンだろ?
あ。
絵から抜け出した的な、アレ?
そーゆーファンタジー的な、アレ?
いやいや。
そーじゃない。
だって、絵よりもずっと綺麗で、ある意味人間味がないほどだもん。
髪も肌もなにもかもが繊細で愛らしく、人間のあらゆる理想を凝縮させた、生ける人形みたいだもん。
かなり正気じゃなかったあの台風の日には、間近で見ていたようで、ちゃんと見えてなかったンだな。
素面で見ると、実物はこんなにも神秘的なンだな。
(絵を描くコトには、ちょっと自信あったケド…
全然だ。
俺の腕じゃ、この人をキャンバスに閉じ込めることはできない…)
恍惚とした敗北感に包まれたコーヅキが、腑抜けのように突っ立っていると…
「絵がお上手ですのね」
その美しい人…紫信が、薄く微笑みながら振り返った。
って、笑った!?
明らかにコチラに向けて、笑いかけた!?
その上、たった今全然だと思った絵を褒められたぁぁぁぁぁ!?
「イヤイヤイヤイヤ…
ゼンゼンゼンゼン…
ヘタヘタヘタヘタマジデヘタ…」
不眠のせいで青白かった顔を急速に赤らめて、コーヅキはなにやらモゴモゴと呟いた。
なるほど、わからん。
てか、まーた正気を失っとる。