花京院家の愛玩人形

なんでココにいンだろ?

あ。
絵から抜け出した的な、アレ?
そーゆーファンタジー的な、アレ?

いやいや。
そーじゃない。

だって、絵よりもずっと綺麗で、ある意味人間味がないほどだもん。

髪も肌もなにもかもが繊細で愛らしく、人間のあらゆる理想を凝縮させた、生ける人形みたいだもん。

かなり正気じゃなかったあの台風の日には、間近で見ていたようで、ちゃんと見えてなかったンだな。

素面で見ると、実物はこんなにも神秘的なンだな。


(絵を描くコトには、ちょっと自信あったケド…
全然だ。
俺の腕じゃ、この人をキャンバスに閉じ込めることはできない…)


恍惚とした敗北感に包まれたコーヅキが、腑抜けのように突っ立っていると…


「絵がお上手ですのね」


その美しい人…紫信が、薄く微笑みながら振り返った。

って、笑った!?

明らかにコチラに向けて、笑いかけた!?

その上、たった今全然だと思った絵を褒められたぁぁぁぁぁ!?


「イヤイヤイヤイヤ…
ゼンゼンゼンゼン…
ヘタヘタヘタヘタマジデヘタ…」


不眠のせいで青白かった顔を急速に赤らめて、コーヅキはなにやらモゴモゴと呟いた。

なるほど、わからん。

てか、まーた正気を失っとる。

< 208 / 210 >

この作品をシェア

pagetop