花京院家の愛玩人形

「ソコに行った、ナニをした、という箇条書きのような記憶はありますの。
でも、なぜかその情景が朧げで…」


「…」


「本当は、家の中しか知らないような…
一度も外に出たことなんてないような気がして、たまに不安になりますの。
おかしいですわね、わたくし」


「…
ほら、コレをご覧?
奄美の海だよ」


「まぁ!なんて眩しい青でしょう!」


紫乃が写真集に夢中になっている間に、要はある写真をアルバムから抜き取った。

他の写真の裏側に隠すように挟んであった、一枚の写真を。

抜き取って、眺めて…
シャツの胸ポケットにしまった。

時が流れ、要が帰れば、信太郎が戻る。


「お帰りなさい、信太郎さん」


「ただいま、紫乃。
なんだか楽しそうだ。
イイコトでもあったのかい?」


「あ…
あの、実はね?信太郎さん」


「外には出ていないだろうね?
誰にも会っていないだろうね?」


「え…」


「わかっているとは思うが、いけないよ。
この部屋の中で、大人しく私の帰りを待っていておくれ」


「…
わかっておりますわ…」

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